【インタビュー・対談】法政大学 教授 宮城 まり子氏 と 横浜国立大学大学院 准教授 服部 泰宏氏

2015 年度、人材マネジメントコース(2017 年度より人事革新コース)のグループ研究のテーマの一つに「キャリア変化対応力」が取り上げられました。環境変化に対応し持続的に成長していくためには、変化に柔軟に対応できる能力やその意識の高い人材がカギとなると参加メンバーは考えたからです。当グループ研究を指導された服部泰宏 横浜国立大学大学院准教授と、キャリア研究の第一人者である宮城まり子 法政大学教授に、キャリア変化対応力」について対談いただきました。

 

グループ研究について
「安心してください!対応できますよ」~不透明で不確実な時代を生き抜くキャリア変化対応力の探求~

服部氏:グループ研究を開始するに当り、最初は参加メンバーで自社の課題をとにかく色々と出し合いました。モチベーション、閉塞感、管理職になりたがらない・・・その中で共通していたのがキャリアに関する問題で、整理すると(1) キャリア上の機会の減少、(2) 個人のキャリア志向性の多様化、(3) 予見可能性が低いキャリアチェンジの増加の3つです。キャリアについてまず先行研究を調べると、「キャリア自律」だったり「キャリアレジリエンス」、「キャリア・アダプタビリティ」といった定義が出てきますが、自分たちの腹落ちした言葉にするという点に強くこだわり、結果的に彼らの求める人材像を考慮して「キャリア変化対応力」という言葉を用いることにしました。その上でキャリア形成において人事の観点から何ができるのかを探りました。

宮城氏:個人の視点ではなく、組織の視点からの研究ですね。人事制度であったり、経験の積ませ方であったり、上司による部下の育て方だったり。

服部氏:そうです。調査にあたっては、メンバー企業の従業員個人(241 名)に対してアンケートを実施し、キャリア変化対応力やモチベーションを測定し、企業から受けている支援や機会、そしてその関係性を分析しました。

宮城氏:どのようにキャリア変化対応力を測定したのですか?

服部氏:キャリア変化対応力は大まかに、自律、未来志向、好奇心、自信の4 つの因子があると定義して、そのスコアを測りました。これらが業績、モチベーション、組織コミットメントにどう影響するかを見ました。結果、概してプラスの影響を与えていそうなことが確認されました。そして、人事は何を提供すると変化対応力が上がるのか、その打ち手は何なのかを仮説を立てて検証していきました。総括すると、海外経験、社内外のロールモデル、経験学習(内省的観察、抽象的概念化)、社内外の学び・交流の場に参加、上司との関係といったものが、キャリア変化対応力を高めることにつながることが明らかになりました。

宮城氏:個人の視点からは、「社内外の学び・交流の場に参加」が有効ということですね。例えば自律的にキャリア開発に勤しむとか、異業種交流会に積極的に参加し人脈の幅を拡げるなど。「抽象的概念化」とは具体的にはどういうことですか?

服部氏:自分の経験を他の状況にも応用できるように一般化・概念化して、経験のまま終わらせない。いわゆるコンセプチュアル・スキルです。これには上司からの支援が重要になるとも考察しています。

宮城氏:「経験学習」は本当に大事ですね。色々な施策、例えば海外経験も、内省を含めた「経験学習」を経ることにより効果として現れるものです。

服部泰宏氏
横浜国立大学大学院 国際社会化学研究院 准教授
経営学博士

 

人事は「ボキャブラリー」を持て

宮城氏:一方、アンケートによる一つひとつの仮説検証結果では、本来はキャリア自律に有効な、部門を跨ぐ異動経験や勤務地変更を伴う転勤、出向を含む社外での勤務経験等が、キャリア変化対応力に影響を及ぼさないという結果なのですね。これは上司や人事部からの説明不足の実態が表れているのかもしれませんね。キャリア相談で大変多いのが、なぜ自分がここに異動しないといけないのか、というものです。会社は従業員に対して大きな期待をかけて行っている配属が、従業員への説明や期待感の持たせ方が不十分なために、本人にその主旨が全く理解されていないばかりか動機づけも逆効果のものになっていることが多いのです。役割、責任、期待することを明確化する。それが内省にも繋がります。

服部氏:グループ研究でもまさしく同様の考察をしました。以前、私がプロサッカーの監督を取材したときに聞いた話ですが、監督は選手にポジション変更を要求するときに、しっかりと説明します。なぜあなたに新しいポジションを担ってほしいのか、そのポジションがこれからのチームにとっていかに重要な役割を果たすか、あなたには「楔(くさび)」になってほしいのだと話して、選手に納得してもらうそうです。この時の「楔」という言葉が重要です。人事も同じです。人事も従業員に対して「ボキャブラリー」を持たねばなりません。それいかんで、従業員のキャリアを伸ばすことにもつぶすことにもなるのです。

宮城氏:個人の視点でいうと、将来の見通しがつくということ(キャリア・パースペクティブ)も、心理学的にも大変重要です。キャリア相談を受けていると、こんなに変化の激しい環境下で長期のキャリアプランを持つことに意味が無いのでは、という人がいます。そんな人には、おおざっぱでいいから3 年、5 年、10 年後の姿を考えてみるように言います。3 年後に何もプランを持っていない人と持っている人とでは、これからの3 年でやることが違うはずです。ゴールに固執することではありません。キャリアというのはその積み重ねであり、どういったゴールにたどり着くかでなくそのプロセスこそが大切なのです。それこそキャリア変化対応力に繋がるものではないでしょうか。


宮城まり子氏
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
臨床心理士 日本産業カウンセリング学会名誉会長

 

ぶつかりあってパートナーシップを高め合う

宮城氏:アメリカのキャリア研究者ジェラットは、キャリアはゴールに行きつくまでのプロセスの中で形成されると言っています。ありたい自分にどう近づいていくか、自分の物語をどう完成させるかを主観的に考える「ナラティブ・アプローチ」が有効です。物語の作者は自分自身。自分のキャリアを会社に任せっぱなしにするな、ということです。自分のキャリア(物語)は自分で構築する。そのためには、会社へのアピール力が必要になってきますし、準備をしてその根拠を示す必要があります。それもキャリア変化対応力の一つではないでしょうか。

服部氏:会社の方も従業員とどういう関係性を持とうとしているのかビジョンを示せていないところがあると思います。MBO などの色々な施策の根底にある設計思想です。欧米だったらコントラクト(契約)かもしれません。私の研究テーマの一つに会社と従業員の「心理的契約」があるのですが、キャリア形成においてもこの心理的契約が働いていると感じています。お互いに明言しないけれども、お互いに期待をしている。しかし今後はそれをクリアにして、会社はキャリア開発のために出来ること出来ないこと、施策の範囲を明確にし、従業員も会社に対してやりたいことなどもっと意見をぶつけ合うことが重要になってくるでしょう。

宮城氏:両方が自立することで、パートナーシップが高まり信頼関係が築けるということですね。会社も会社の物語を従業員に提示すべきですよね。それに対して従業員の物語が呼応できれば理想ですね。

服部氏:グループ研究中にもこういった議論をしていました。報告書にまとめるまではいきませんでしたが、経営アカデミー修了後、各企業で色々な施策を打つ際に役立てていることと思います。
 先程出た「経験学習」の重要さですが、参加メンバー自身、経営アカデミーに参加するというのはどういうことか、という問いを自ら投げかけていました。黙り込んでいましたけどね。(笑)

宮城氏:社外での学び・交流の場である経営アカデミーに参加することはキャリアの形成において非常に有効ですけれども、しっかり経験学習で意味付けをすることが最も大切なことですね。これから参加される方、派遣される企業の方にも、物語の中に経営アカデミーのページを入れて、経験学習とセットにしてその効果を最大にしてほしいと思います。

 


宮城 まり子(みやぎ まりこ)氏 法政大学 キャリアデザイン学部 教授
臨床心理士 日本産業カウンセリング学会名誉会長
慶應義塾大学文学部心理学科卒業。早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻修士課程修了。病院臨床(精神科、小児科)等を経て、1992年 産能大学経営情報学部 助教授、1997年 カリフォルニア州立大学大学院キャリアカウンセリングコースに研究留学、2002年 立正大学心理学部 教授、2008 年より法政大学キャリアデザイン学部 教授。
専門は臨床心理学(産業臨床・メンタルヘルス)、生涯発達心理学、キャリア開発・キャリアカウンセリング。2002年日本生産性本部キャリアコンサルタント養成講座の立ち上げから講師を務め、延べ1100名以上のキャリアコンサルタントを育成。企業へのキャリア教育も数多く実施。
近著に「ナラティブ・キャリアカウンセリング ―「語り」が未来を創る―」(訳著 2016年10月 生産性出版)。


服部 泰宏(はっとり やすひろ)氏 横浜国立大学大学院 国際社会科学研究院 准教授 経営学博士
2009年 神戸大学大学院経営学研究科マネジメント・システム専攻博士課程後期過程修了、2009年 滋賀大学経済学部専任講師、2011年 滋賀大学経済学部准教授、2013年 横浜国立大学大学院国際社会科学研究院准教授(現在に至る)。2014年より経営アカデミー「人材マネジメントコース(2017年度より人事革新コース)」グループ研究指導講師を務める。
日本企業における組織と個人の関わりあい(心理的契約)の研究のほか、人材の採用を科学的にアプローチする「採用学」の確立に向けた研究・活動にも従事。2010年 第26回組織学会高宮賞受賞、2014年 人材育成学会論文賞受賞。
近著に「採用学」(2016年5月 新潮選書)。

※所属・役職は2016年10月20日時点

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